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国際課税の基礎知識

国際課税と言いつつ、必ずしも国際的取り決めが存在するわけではない。2国間条約を締結して課税権の配分を定めるのが常である。本稿でも、国際取引に関する日本の課税を「国際課税」と呼び、所得税を中心に内容を概覧する。なお、わが国の場合、憲法が国際協調主義を採り、条約が法律に優位する建前を採用している注1が、憲法は同時に租税法律主義も採用している。そこで、法律上、条約を包括的に取り込む形式をとり、そのうえで条約は法律を専ら軽減すると考えられている。したがってタックスプランニングの際は、条約の参照が不可欠である。

所得税法の規律

複雑であるが、ポイントとして、「『誰の』、『いかなる行為』が課税対象か」、「源泉徴収されるか」、「確定申告するか」、という3点に分解すれば理解しやすい。

1.課税対象

(1)「誰の」‐居住者か非居住者か

居住者の国内取引は通常の所得税の対象だが、国外取引にわたる場合であっても全所得について日本で課税対象となる(無制限納税義務)注2。これに対し、非居住者の場合には、国内源泉所得のみが課税対象となる(制限納税義務)からその区別は重要である。非居住者とは居住者以外の者であり、居住者は国内に住所(生活の本拠)を有するか、連続1年以上居所を有する者であるから、住所・居所の判定が決め手となる。
 生活の本拠は客観的事実で認定される注3が、実務的には図表1の推定規定の存在が重要である。ただし、みなし規定ではないので反証で覆される危険は残る。住所がない場合には、1年間非居住者として扱われ、1年経過した日から居住者として扱われる。1年以内に住所を有するに至った場合は、その時点から居住者となる注4

図表1■住所の推定規定

住所の推定規定
資料:筆者作成

(2)「いかなる行為」

【I】居住者の場合

居住者が国外で所得を得た場合、為替換算後、国内取引との合算課税が行われる(全世界所得課税)。しかし、活動段階で国外の源泉所得課税を受けた場合、二重課税が生ずる。租税は国の内外を問わず経済には中立でなければならない(資本輸出中立性)から、本国であるわが国において外国所得税の控除を認めた。これを外国税額控除制度といい、国外所得総額に対する日本の税率相当額を限度額とし、国別でなく全体で税額控除の限度額が計算される。

【II】非居住者の場合

前述のとおり、対象者が非居住者の場合には課税対象は国内源泉所得に限られる。国内源泉所得とは、経済的に日本市場から得た収入とこれに因果づけられる必要経費との差額を意味する。鳥瞰的に、【A】国内事業所得、【B】国内資産所得、の考え方を押さえておく。

【A】国内事業所得

事業が国内で行われた場合、国内源泉所得となる。事業とは、反復継続独立性を備えた営利行為であり、コストをかけて利益(付加価値)を獲得する過程である。この付加価値の生ずる場所こそが所得の源泉地である。代表的なものを紹介する。
(ア)物品販売業:購入地ではなく、販売地に所得を集中する。理論的には国境をまたぐ際に独立企業間価格(Arm’s LengthPrice:ALP)を認定し、国内と国外の所得(内外所得)を分解することも不可能ではない。しかし、国内販売について実現主義(引き渡し等により所得発生を認識)を採用している以上、未実現利益を課税対象とすることは均衡を欠く。販売地は引き渡しで判定するが、実務的見地から、引き渡し直前に目的物が国内に存在していた、あるいは、契約が国内で締結された等の一定事実があれば、引き渡しを国内とする法定証拠法則が存在する。
(イ)製造販売業:製造等の価値増加行為については、所得発生を観念する(製造が販売と離れて、単独で所得を発生するものと考える)。製造と販売が国境をまたぐ場合には、したがって、製品完成段階における卸価格をALPで算定し、これにより内外所得を分解する。
(ウ)建設工事等:建設、据え付け、組み立て等については、施工地で所得が生ずる。販売と異なり、契約締結地や人員資材調達地は関係ない。
(エ)広告業等:広告掲載地に所得が配分される。
(オ)その他の事業:内外所得をALPで配分する。
 なお、補助的活動(広告、宣伝、情報の提供、市場調査等)や純粋に観念的な内部取引は所得を構成しない。

【B】国内資産所得

国内資産の運用・保有・譲渡による所得は国内源泉所得である。資産の所在地を判定基準とする注5。物理的な存在と関連する所有権や利用権などは直感的判断になじむが、債券・貸付金などは債務者の所在地、保険金請求権・預貯金・有価証券などは取引営業所単位で判定する。
なお、所得地並びに居住地の別と所得税課税制度の関係を図表2に概説しておく。

図表2■所得地・居住地の違いと所得税課税制度

日本の居住者 非居住者
国内所得 日本の所得税課税 日本の所得税課税
(事業所得以外は原則、源泉徴収)
国外所得 全世界所得課税+外国税額控除 取引相手国・地域における所得税課税

資料:筆者作成

2.源泉徴収の有無

投資リターンの減殺要因として、源泉徴収の有無は重要である。基本的に収入総額に対して、20%の源泉徴収課税だが、税率は所得分類で変化する(所得税基本通達164-1を参照)。一方、事業所得には源泉徴収がない点と、条約の特則に留意すること。なお、ソフトや音楽・画像等の所得分類については、OECD基準の考え方(図表3参照)に収束しつつある。要は、契約内容で利用者にどこまで権利利用を許諾するかである。

図表3■OECD基準によるソフトや音楽・画像等の所得分類

OECD基準によるソフトや音楽・画像等の所得分類
資料:筆者作成

3.確定申告の要否

決め手は、非居住者の「恒久的施設(Permanent Establishment:PE)」の存否である(図表4参照)。PEが存在すれば、その施設に帰属する損益は、総合課税の対象となる。さらに、PEが1号PE(固定的組織)であれば、帰属も問わずあらゆる国内源泉所得が総合課税の対象となる。逆に、不存在ならば、不動産所得や人的役務提供事業に係る所得などに総合課税の範囲が限定され、利子、配当、給与、年金等その他の所得は受領時の源泉徴収で課税関係が終了する。
 非居住者の確定申告は、青色申告制度を含め、原則として居住者に準ずる。ただし、雑損控除、寄付金控除および基礎控除以外の所得控除はなく、外国税額控除の適用もない。

図表4■PEの種類

PEの種類 内 容
1号PE(支店PE) 支店、工場その他の事業を行う場所
2号PE(建設PE) 建設、据え付け、組み立て等の作業またはその指揮監督を1年を超えて行うもの
3号PE(代理人PE) 契約締結する権限のある者等を置くもの

資料:筆者作成

堅牢に見える日本の所得税法だが、国際課税の問題は一国だけの問題ではない。外資誘致に躍起になる発展途上国、税負担最少を目論む多国籍企業、次々とスキームを編み出すタックス・プランナー。課税の空白を埋める先進諸国のパッチワーク作業と各課税庁による強権行使。タックス・ヘイブン税制(税率の低い国に所得を残すスキーム封じ)やパススルー利用課税回避封じ(事業組織ではなくその出資者が納税主体となることで税の軽減を図るスキーム封じ)などが立法的に行われてきたが、グレーゾーンの大きいALPの税務紛争は、海外子会社との取引価格問題など、今なお頻繁にメディアを賑わしている。

 「国境が融ける」‐そんな表現もあながち誇張と言えなくなった。科学技術の発展はとどまるところを知らないし、海外への生産拠点移転は、今や上場企業だけではない。国際課税が特殊分野であった時代は過去となりつつある。FP諸氏の知恵と技術の活用は国際課税の分野においても期待されよう。 (FPジャーナル2010.10月号より抜粋)