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単利商品の扱い方-複利に換算

顧客から相談を受け、資産運用を考える際に重要になるのがキャッシュフロー表(CF表)の作成である。日常の支出に並行し、子どもの教育資金、住宅の購入資金、退職後の老後資金などをどのタイミングでどのくらいずつ準備・運用していくかを検討する際に欠かせない。
 金融商品の販売資格保有者であれば具体的な商品をイメージしながら、販売資格のない方でも普通預金、定期預金、個人向け国債(固定3年・5年、変動10年)、10年利付国債などの金利を指標としてCF表に運用利回りを設定されている方も多いのではないだろうか。
 ご存知のとおり、CF表作成ソフトでは、収入や支出の上昇率が複利で設定されているのと同じく、金融資産運用利回りも複利で設定する必要がある。一方、国内外の国債や社債などの債券は、利回りといっても単利が記載されていることが少なくない。つまり、そのままではCF表には使えないのである。

債券の利回り

投資元本のみに利子が付く単利型商品には、3年未満のスーパー定期などもあるが、ここでは中・長期の投資先として商品が多様な債券について確認していく。債券を発行体別にわけると、国が発行する国債、地方自治体が発行する地方債、民間の株式会社などが発行する事業債(社債)などがある。最近は、日本国内が超低金利であるため、高利回りをキャッチとした外貨建て新発債券の取り扱いが増えている。
 商品的には、先進国通貨建てでは「利付債」、新興国通貨建てでは「ディスカウント債(クーポンを低く抑えた割引債券)」が多く、「ゼロクーポン債(国外で発行される利払いのない割引債券)」の扱いは比較的少ない。ゼロクーポン債が少ない背景の1つとしては税金制度がある。ゼロクーポン債額面よりも割り引いて発行されるため、償還時にはその差益が雑所得として総合課税の対象となり、中途売却時には通常、譲渡所得として総合課税の対象となる。しかし、ディスカウント債は、一定の条件(例えば、平成15年6月13日以降に発行されたものでは、償還期限15年以上でクーポン利率0.5%以上、10年以上15年未満で0.4%以上、8年以上10年未満で0.3%以上、7年以上8年未満で0.2%以上、7年未満で0.1%以上)を満たすことにより、クーポンには20%の源泉徴収税が適用され、中途売却時の譲渡益が非課税になる。証券会社は上記条件を最低限満たすようにクーポン利率を設定するため、高利回り債券であるほど、クーポン利率を差し引いた、非課税になる譲渡益部分の割合が大きくなる。新発であるが故に、このような日本向けの商品設計ができるのである。
 さて、本題である債券の利回りについては、新発債券と既発債券で表示方法が異なっている。ここには円建てと外貨建てによる違いはなく、新発債券の場合は単利型(ゼロクーポン債のみ複利型)、既発債券は複利型で表示されている。
 なお、債券の利回りについて証券会社のホームページを確認したところ、単利、複利といった記載がないところが多いので、覚えておくとよいだろう。

単利と複利の比較

新発債券のように単利型で表示されている金融商品がポートフォリオに入ってくる場合は、そのまま加重平均してポートフォリオ全体の運用利回りを計算できない。そのため、単利型の商品をポートフォリオに組み入れる場合には、複利に換算する必要がある。まずは換算しなかった場合に、どの程度の誤差になってくるかをイメージしていただこうと思う。子どもが生まれてすぐに教育資金準備を始めることを想定し、単利と1年複利で18年間運用するとした比較グラフを作成した(図表1参照)。利回り5%で、18年間運用すると単利で190.0%、複利で240.7%となり、利息の差は50.7%にもなる。複利の効果を見るために複利÷単利を求めると約1.27倍もの差になることがわかる。ただし、利回り1%の場合は複利の効果も小さくなり1.01倍程度である。このことから、高利回りの商品であるほど、ポートフォリオ全体の運用利回りを求めるとき、単利のまま加重平均してしまうと大きな誤差となることをご理解いただけるだろう。

図表1■単利と複利(年複利)の比較グラフ(18年間)

図表1■単利と複利(年複利)の比較グラフ(18年間)
資料:筆者作成

単利を複利に換算

単利の複利換算には、下の数式に挙げた近似式を用いればよい。具体的に商品が決まっている場合には、この数式を用いて計算すればよいだろう。

数式ポートフォリオの複利利回りを求める計算式(近似式)

ポートフォリオの複利利回りを求める計算式(近似式)
r:複利利回り、cF:クーポンレート、n:償還までの期間、
F:額面(100円)、P:購入価格(額面あたり単価)

ここでは、単利を複利に換算するとどの程度変わってくるのかをイメージいただくために、単利利回りと償還期間から、複利利回りを調べられる一覧表を作成した(図表2参照)。この表はCF表に揃えて1年複利としているため、1年目の単利と複利は等しくなる。複利では2年目以降、利息が利息を生むことから、同じ期間であれば「単利利回り>複利利回り」となる。そのため、金利が高く、運用期間が長いほど複利換算後の複利利回りは大きく低下する。その結果、同じ利率の新発債券であっても、期間の長い債券は、より期間の短い債券よりも有利に見えてしまうのである。
 なお、近似式および図表2の利用にあたり注意点もある。例えば教育資金準備を目的として、期間が7年の外貨建て債券を検討しているとする。償還後も同じアセットクラスで18年間運用を続けるのであれば、複利換算された18年の利回りではなく、償還日までの7年でみることが必要になる。なぜなら、債券が償還を迎えると、その償還金とそれまでに受け取った利息、つまりは元利合計額を改めて投資できるからである。

最近では今後の成長を期待され、金利の高い新興国通貨建て新発債券は売り切れるものも多いように見受けられる。今後も日本国内で低金利が続けば、この傾向は強まり、商品種類はさらに増えていくだろう。このような状況のなか、投資経験が浅い方の関心は利回りとリスクにあるため、投資にあたり他の商品と相対的に判断できるように、単利利回りの商品を複利利回りに揃えることも、FPにとって大切な役割と言えるのではないだろうか。(FPジャーナル2010.10月号より抜粋)