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不動産売却時の諸費用と手取り金額

はじめに

買換えや換金を目的として不動産を売却する場合、「いくらで売れるか」は最大の関心事だろう。しかし、実際には「最終的にいくら手元に残るか」が重要である。
 本稿では、不動産の売却時に必要な諸費用、売却に係る税金を整理したうえで、手取り金額の概算方法をまとめてみた。

手取り金額の概算

不動産の売れる価格(売却価格)の目処がついている場合、不動産売却時の諸費用と税額、そしてその不動産に関する残債等の額がわかれば、手取り金額が概算できる(数式1参照)。

数式1不動産売却に係る手取り金額の計算式

手取り金額=売却価格-(諸費用+税額+残債等)

資料:筆者作成

売却価格の見込みがわからないときには、不動産仲介業者の「無料査定」を利用する方法もあるだろう。ただし、業者によっては、売却の仲介業務の依頼を取りたいがために、高い査定額を提示するケースもあるので注意したい。可能であれば、複数の業者から査定額を出してもらうとよいだろう。
 購入時よりも不動産価格が大きく下落した物件では、住宅ローンの残債等の額が多く、計算上、手取り金額がマイナスになることも少なくない。このような不動産を売却するためには、その不足分について、貯蓄等の他の資産から資金調達する必要がある。
 なお、ここでいう残債等とは、その不動産を売却する際に抵当権等の担保権を抹消するために必要な金額である。

不動産売却時の諸費用

不動産売却時に係る主な諸費用には、仲介手数料、印紙税、登記費用がある。このほか、測量費用や建物解体撤去費用、改装費用等がかかる場合もある。

仲介手数料

不動産は金額も大きく売買契約書類も一般の人にはわかりにくいため、通常、売却の際には不動産業者に仲介業務を依頼する。売買契約が成立すれば報酬額として成約価格の約3%の仲介手数料を支払うケースが多いだろう。

印紙税

不動産の売買契約書は課税文書であるため、印紙税法上、その作成者となる売主・買主が連帯して印紙税(国税)を負担する義務がある。現在は特例措置があり、例えば売買価格が1000万円超5000万円以下の場合は1万5000円(本則2万円)、5000万円超1億円以下の場合は4万5000円(本則6万円)である。

登記費用

不動産を買主の名義に変更するため、売主として必要な登記があれば、その登記費用を負担する必要がある。具体的には住所変更等の表示変更登記や抵当権抹消登記等が挙げられる。相続登記が未了の場合には、時間も費用も多くかかる。早い段階で、登記費用の負担があるのか確認しておいたほうがよい。

不動産売却時の税金

不動産の譲渡所得の計算において譲渡益が発生すれば、原則として所得税・住民税の対象となる。
 譲渡した年の1月1日現在の所有期間が5年を超える不動産を売ったときには長期譲渡所得、5年以下の不動産を売ったときには短期譲渡所得として、税額の計算を別々に行う(数式2参照)。なお、個人が不動産を売却(譲渡)したときには、事業所得や給与所得などの所得と分離(分離課税)して、税額を計算することになっている。

数式2不動産売却時の譲渡所得の税額の計算

長期譲渡所得の税額の計算

1.課税長期譲渡所得金額の計算

課税長期譲渡所得金額=譲渡価額-(取得費+譲渡費用)-特別控除

2.税額の計算

税額=課税短期譲渡所得金額×税率39%(所得税30%・住民税9%)

注1:譲渡価額とは、土地や建物の売却代金などをいう

注2:取得費とは、売った土地や建物を買い入れたときの購入代金や、購入手数料などの資産の取得に要した金額に、その後支出した改良費、設備費などの額を加えた合計額をいう。なお、建物の取得費は、所有期間中の減価償却費相当額を差し引いて計算する。また、土地や建物の取得費がわからなかったり、実際の取得費が譲渡価額の5%よりも少ないときは、譲渡価額の5%を取得費(概算取得費)とすることができる

注3:譲渡費用とは、土地や建物を売るために支出した費用をいい、仲介手数料、測量費、売買契約書の印紙代、売却するときに借家人などに支払った立退料、建物を取り壊して土地を売るときの取壊し費用などをいう

注4:マイホームを売った場合には、3000万円の特別控除など各種の特例がある

資料:国税庁「タックスアンサー」より抜粋

マイホーム(居住用財産)を売ったときは、所有期間の長短に関係なく譲渡所得から最高3000万円まで控除ができる特例(居住用財産を譲渡した場合の3000万円の特別控除の特例)があり、結果的に税額が発生しないケースも多い。この場合の主な注意点は、「確定申告が必要であること」と、買換えの場合に「住宅ローン控除との併用ができないこと」である。また、税金の計算はすべて所有者ごとに行うため、例えば共有者のうち、マイホームとして利用していない等で特例を受けるための適用要件を満たさない人は、この特例が使えない。
 不動産の譲渡所得では、他にも「軽減税率の特例」や「特定の居住用財産の買換えの特例」、「事業用資産の買換えの特例」等があり、税額を求める場合には、特例の適用要件を満たすかどうかも含めて、事前に税務署や税理士等の専門家への確認は欠かせない。
 なお、不動産を譲渡して譲渡損失が生じた場合には、居住用等の一定の要件を満たす場合を除き給与所得等の他の所得と損益通算ができないが、同年に他の不動産を売却して譲渡益が発生する場合には譲渡損失を控除できる。他に売却予定の不動産があるとしたら、損益通算の可能性を検討したい。

手取り金額の概算時のポイント

計画を立てる段階では、詳細の数字はわからないため、売却価格は低めに、諸費用については高めに設定するほうがよい。また、不動産が共有である場合には、所有者ごとに、持分や税務上で利用できる特例等に違いが出ることも少なくないため、売却価格や諸費用を共有持分で按分する等して、所有者ごとに手取り金額を把握する必要がある(図表参照)。

図表■手取り金額の概算時のポイント

  • 売却価格は低めに、諸費用は高めに設定する
  • 不動産が共有の場合には、所有者ごとに手取り金額を把握する
  • 譲渡の所得税・住民税については税務署や税理士等の専門家に確認する

資料:筆者作成

不動産を売却する際には、諸費用や税金の負担がある。その負担があるにもかかわらず不動産を売却するのは、買換えや換金等の目的があってのことだろう。
 FPとして不動産の売却資金の活用法に関する相談を受ける際、売却する不動産が共有の場合には特に気をつけたい。不動産売却後の活用プランにおいて、共有者のうちの特定の者のためだけに売却資金すべてが使われると、後から贈与税が課税される等の問題が起きることもあるからだ。不動産を売却する本来の目的を達成するためには、売却によって手取り金額がいくらになるのかについて、不動産ごとではなく所有者ごとに把握することが重要となる。
 また、実際に実行する際には、金額だけではなく売却代金を受け取るタイミング、諸費用や税金等を支払うタイミングも全体の計画に大きく影響を及ぼすということも忘れてはならない。(FPジャーナル2010.10月号より抜粋)