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年次有給休暇制度の基本と時間単位付与

平成22年4月、改正労働基準法が施行された。改正事項の目玉の1つに、年次有給休暇の時間単位付与制度の創設が挙げられる。本稿では、年次有給休暇制度の基本を確認し、新たに創設された時間単位付与制度について検討したい。

年次有給休暇制度の背景

年次有給休暇(以下、「年休」という)制度は、労働基準法が定める制度のなかでも、最も広く知られている制度の1つといえるだろう。年休の取得率は長年5割前後で推移していたが、近年は5割をやや下回る水準となっている(厚生労働省「就労条件総合調査」より)。平成20年3月に施行された労働契約法では、「労働契約は、労働者及び使用者が仕事と生活の調和にも配慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする。」(第3条第3項)と、ワーク・ライフ・バランスについて規定されるなど、年休取得率の向上については社会的要請が強まっているといえる。このように年休制度は広く知られている制度で、社会的要請も高まりつつある背景にありながら、十分にその利用が促進されているとまではいえない状況である。この状況を受けて、政府は「労働時間等見直しガイドライン」を改正した(原則として平成22年4月1日適用)。年休に関する主な改正のポイントは、図表1のとおりである。

図表1[労働時間等見直しガイドライン」の年次有給休暇に係る主な改正点

  • 労使の話し合いの機会において年次有給休暇の取得状況を確認する制度を導入するとともに、取得率向上に向けた具体的な方策を検討すること
  • 取得率の目標設定を検討すること
  • 計画的付与制度の活用を図る際、連続した休暇の取得促進に配慮すること
  • 2週間程度の連続した休暇の取得促進を図るに当たっては、当該事業場の全労働者が長期休暇を取得できるような制度の導入に向けて検討すること

年次有給休暇の基本事項

年休は、極めて特異な休暇制度である。原則として理由の如何にかかわらず取得が認められること注1、休暇取得日について、有給とすることが法律で義務づけられていること、の2点は、他の法定休暇制度(公民権行使の時間、産前産後休業、育児時間、生理休暇、育児休業、子の看護休暇、介護休業、介護休暇)にはない唯一年休にだけ認められた事項である。
 年休は、最初の雇い入れ日から6カ月継続勤務注2し、かつ、その6カ月間の出勤率が8割以上である労働者に対し、原則として10日付与される注3。継続勤務6カ月経過日が、その労働者の「基準日」となり注4、その後毎年基準日ごとに新たな年休が発生する。1週間の所定労働時間が30時間未満で、かつ、所定労働日数が1週間4日(または年間216日)以下である場合は、比例付与となる(図表2参照)。

図表2■年次有給休暇の比例付与(雇い入れ日から起算した継続勤務期間)

週所定労働日数 年所定労働日数 継続勤務期間
6カ月 1年 6カ月 2年 6カ月 3年 6カ月 4年 6カ月 5年 6カ月 6年 6カ月 以上
一般 5日~ 217日~ 10日 11日 12日 14日 16日 18日 20日
比例付与 4日 169~日 7日 8日 9日 10日 12日 13日 15日
3日 121~日 5日 6日 6日 8日 9日 10日 11日
2日 73~日 3日 4日 4日 5日 6日 6日 7日
1日 48~日 1日 2日 2日 2日 3日 3日 3日

資料:筆者作成

注1:週所定労働時間数が30時間以上の場合は、所定労働日数にかかわらず上記「一般」欄の日数を付与
注2:比例付与は、基準日における所定労働日数でその後1年間の付与日数を決定する

年休取得日の賃金は、平均賃金1日分、または所定労働時間労働した場合の通常支払われる賃金、のいずれかを就業規則等で定めることとなる。しかし、労使協定で、健康保険法による標準報酬日額を支払うこととしたときは、労使協定に従う。
 賃金等の請求権の時効が2年であることから、年休は、その発生日から2年間経過することで時効消滅すると解釈されている。
 以上の年休に関する基本事項は、労働基準法の規定によるものである。従って、事業主は、この規定を上回る条件で年休を付与することは差し支えない(下回る条件を定めた場合は、その部分は無効となる)。

時季変更権と計画的付与

年休取得日は、原則として労働者が自由に指定できる。しかし、労働者が年休請求による時季指定した日について、年休付与することが事業の正常な運営を妨げる場合においては、事業主はその時季を変更することができる。時季変更権の行使は、年休取得理由等を判断材料とすることは認められず、事業の正常な運営を妨げるか否かのみで判断される。時季変更であって却下ではないので、他の時季を指定する必要がある。なお、計画的付与により年休付与日が指定された日については、時季変更権の行使は認められない。
 また、年休取得率の向上を目的として、労使協定の締結を条件に、計画的に年休付与日を指定することが認められている。計画付与は、各労働者が有する付与日数のうち、5日を超える部分についてのみ可能である。労使協定の締結が条件であるため、事業主が一方的に時季を指定できるものではない。労使間の合意を前提に、大型連休を計画するなど様々な活用方法が考えられる。

年休の時間単位付与

年休の「時間単位」の付与については、平成22年3月までは例外なく違法とされていた注5。しかし、平成22年4月の改正労働基準法施行により、一定の条件を満たすことで認められることになった。背景には、既述の「仕事と生活の調和」のための柔軟性の確保等の狙いがある。
 実際に年休の時間単位付与制度を導入するためには、書面による労使協定の締結注6が必要である。従って、労働者側が希望しても、使用者がこれを認めなければ導入できない制度なのである。労使協定で定めなければならない事項は、次のとおりである。

(1)時間単位付与の対象労働者の範囲

対象労働者として、全労働者を対象とするか、一部労働者を除外するか定める。一部を対象外とするのは事業の正常な運営を妨げる場合に限られる(取得目的による制限は不可)。

(2)時間単位付与が可能な年休日数

既述のとおり、年休付与日数は、各労働者個別の勤続年数や、所定労働日数によって異なる。時間単位付与に関しては、年休何日分までを時間単位で取得可能とするか、あらかじめ定めておく必要がある(最大で年間5日分まで)。

(3)時間単位付与の年休1日分の時間数

年休1日分が、何時間分に相当するのか定めておく必要がある。所定労働時間数が8時間ちょうどであれば、8時間分とするのが基本である。所定労働時間が7時間30分である場合は、切り捨てが認められないため、これも8時間分となる。

(4)1時間以外の時間を単位とする場合は、その時間数

時間単位付与は、原則は1時間であるが、これを2時間等と定めることも可能である。ただし、「時間」単位なので、例えば「1.5時間」等と定めることはできない。

時間単位付与とその運用

仮に年5日まで年休を時間単位で取得できるとして、1日が8時間とすれば、年間40時間分の時間数の年休取得が可能となる。年休時間単位付与制度を活用するシーンを考えると、病院受診後の出勤、旅行準備のための早退、昼休みを延長して個人的な手続き等を済ませる等、仕事と生活の調和が思い浮かぶ。
 年休を時間単位で活用できる場合であっても、あくまでも通常の年休と同様で、事前に請求することが原則である。従って、事業所のルールとして、就業規則等で年休請求は前々日の終業時刻までとされていれば、それまでに請求する必要がある。時間単位付与の場合であっても、事業の正常な運営を妨げる場合には、事業主は時季変更権を行使することも考えられるのである。
 そもそも、年休制度は、労働者の疲労回復や仕事と生活の調和等を目的とする制度であるが、労働契約に付随する制度なのである。年休取得は労働者の権利であるが、権利のみを主張するのではなく、事業の繁閑、担当業務の進捗状況、他の労働者の年休取得日と重ならないかどうか等をよく確認し、本人も事業主も気持ちよく制度活用できるようにすべきである。労働契約の当事者として、ともに相手方との信頼関係の維持・向上を意識するということである。そうすることは、労働者の疲労回復もしくは私生活上のリフレッシュの機会確保のみならず、事業主にとっても良好な労働力の提供が期待でき、まさに年休の目的に適ったあり方といえる。

(FPジャーナル2010.10月号より抜粋)